カイラス

スッキーから電話が鳴る。
彼女は今、ネパールにいる。
そして、いよいよ今からカイラス(チベット)を目指すのだと言う。
車で3日間。さらにキャンプしながら3~4日。
そこに辿り着くまでに1週間以上かかる秘境である。
よって2週間以上音信不通となる。
そこは、6,000m以上の高地であり、
一気に高地を目指すため、高山病を気をつけなくてはならないらしい。
もう7,8年前であろうか。
あるところに貼ってあった写真に強烈に惹かれた。(みたい)
「あれは?」
それが”聖山カイラス”であった。
チベット密教の聖山でもあり、
ヒンズー教の聖山でもある。
シヴァ神が住んでいる場所とも言われ、山であるが、誰も登ってはいけない山でもある。
そんな秘境に行けるはずもなく、
恋焦がれる気持ちだけで、時が過ぎていった。
ところがそんなある日。
そのカイラスに日本人で初めて五体倒地しながら
巡礼したという人がサマディーにやってきた。(ネパール在住)
そこから急速に話が進み始めた。
でも、私は彼女の気持ちは分かっていたけれども
簡単に首を縦には振るわけにもいかず、色々と条件を出した。
彼女はそれからほんと目の色を変え、たくさんの試練を突破した。
そして、1ヶ月ほど経った日、
涙ながらに「どうしても行きたい!」ことを訴えてきた。
私は、今までの彼女の思い、そしてそれからの頑張り。
私には反対する理由は何もなかった。
初めから行かせてあげたいとは思っていた。
それで、快く「行って来い」と言おうと思ったら、
私も感極まって泣いてしまった。
言葉が出てこない。
”なんで、俺が泣かなくっちゃいけない?”
「よかったね。よく頑張ったね。」言葉にならなかった。
なんで???
たぶん、私というより魂が泣いてた気がする。
スッキー自身にとっては、人生最大級の夢であっただろうし、
私自身にとっても、「よくここまで来たな。」と、
快く送り出してあげれる器量、環境を準備できたことに対する
自分に対する誇り、喜びもあったと思う。
いつも思う事だが、チャンスは何度も訪れてはくれないもの。
そのいつか来るだろう、そのワン・チャンスを掴めるか、
というのは、それなりの覚悟は必要だと思う。
出発の日、彼女は亡き両親と大好きだった祖母の写真を
バックに入れていた。
そんな姿を見て、また私は泣いてしまった。
「よかったね。」
今頃、彼女は、
広大なヒマラヤの空の下にいることだろう。

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